ワークショップ記録
ここに いそうな なにか 〜やわらかい彫刻をつくろう〜
概要
実施日時:2025年6月22日(日)12:00〜16:00
場所:アートでまなぶきっずフェスタ 於 ハウスセレクション長浜(滋賀県長浜市八幡東町14)
協力:愛美さん(設営・運営補助)
住宅展示場の屋外スペースで開かれた子ども向けのアートイベントに出展し、「ここに いそうな なにか」というお題のもと、やわらかい素材を使って立体作品をつくるワークショップを行った。出展スペースを「探検ゾーン」と「制作ゾーン」の二つの空間に分け、参加者にはこの二つの空間を通りながら、「探検・想像・制作・ふりかえり」の四つの手順に沿って取り組んでもらった。
目的
1|創造の過程を体験してもらう
目の前にあるものをよく観察し、これまでの経験や知識を活かして想像を膨らませる姿勢を育む。
2|美術への親しみをもってもらう
実際に美術作品に触れてもらい、参加者の美術への興味や関心を深める。
3|表現や素材の多様性に触れてもらう
やわらかい素材を使っていたり、形を変えられたりするような彫刻作品(ソフトスカルプチャー)があることを知ってもらう。また、身近にあるものや普段捨ててしまうようなものを使っても美術作品が作れることを伝え、素材としての面白さを共有する。
空間設計

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2.5m×2.5mの出展スペースを「探検ゾーン」と「制作ゾーン」の二つの空間に分けた。
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探検ゾーンは、参加者が探検(観察)と想像をする場として用意した。地面にビニールを敷き、村松が制作した作品をいくつか配置した。参加者が探検したり遊具で遊んだりするときのようなワクワク感を感じられるよう、探検ゾーンの設計においては特に次の二点を工夫した。一点目、参加者が身体をかがめたり、ひねったりしながら通り抜けるようなつくりにし、身体全体でこの場を体験することを促した。例えば、入り口に門のような作品を設置し、参加者がそれをかき分け、くぐって探検ゾーンに入るようにした。なお、このくぐるという動作によって、日常から参加者の意識を切り替え、集中状態へと移行させることも狙った。さらに、空間を狭くし、制作ゾーンとの間についたてを設けることで、秘密基地のような没入感を演出した。二点目、見るだけでなく触って楽しめるような作品を選んで配置した。具体的には、動かして遊べる作品、カラクリ人形のような仕組みがある作品、触ったり踏んだりすると感触がおもしろい作品などを置いた。また、今回は作品の材料として、段ボールやクラフト紙、紙粘土、ビニールなど身近なものを使うことで、作品づくりの際の参考になるようにした。
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制作ゾーンは、参加者が制作を行うための場として用意した。作品をつくるためのさまざまな素材や道具を揃えておき、そのうえで制作に熱中できるような空間づくりを心がけた。具体的には、以下の通り。まず、床に毛布を敷き、クッションやちゃぶ台を設置した。そうすることで、地べたに座るなど楽な姿勢で制作できるようにした。そして、素材や道具の置き方についても、参加者の目に入りやすく、気軽に手を伸ばせるような並べ方、入れ物にした。また、床をなるべく空けて広々と制作できるようにした。さらに、制作ゾーンを通路側に位置させることで開放的な雰囲気にした。



手順
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導入(3分)
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探検(3分)
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想像(2分)
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制作(15〜25分)
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片付け・撮影・ふりかえり(3分)
※括弧内は時間配分の目安。
全体の所要時間は、25〜35分ほどを想定していた。ただし、参加者本人が意欲的である場合や、混雑状況に余裕がある場合には、所要時間を柔軟に延長してよいものとした。
導入
参加者にはまず靴を脱いで、会場の入口に立ってもらった。靴を脱ぐことで、足の裏からもさまざまな感触を得て、観察できるようにした。特に今回の探検ブースの床には、草やコンクリート製の側溝蓋、金属製のグレーチング(格子状のふた)があり、さらにその上にビニールを敷いていた。いろいろな質感があり、足裏から得られる情報がより面白いものになっていたのではないか。
次に、やわらかい彫刻について簡単な説明を行った。「彫刻」という言葉が、一般的には石や木、金属などの硬い素材を用いた作品を連想させることをふまえ、やわらかい素材を使っていたり、形を変えられたりするような彫刻作品があることを紹介した。これにより、彫刻に対する認識を広げることを狙った。また、以降の手順で見ていく作品においても、不定形であったり脆かったりする素材が用いられている点や、複数の素材が組み合わされている点に注意が向くようにし、制作の際の素材選びや完成形について柔軟な発想を促すことを意図した。
そのうえで、このワークショップが四つの手順で構成されており、最終的にやわらかい彫刻を作ることを伝えた。


探検 -たんけんしてみよう!-
この手順では、参加者に門のような作品をくぐって探検ゾーンに入ってもらい、配置しておいた村松の作品を見たり、触ったりして観察してもらった。参加者は、探検ゾーン内を自由に動き回り、気になった作品を手や足で触ったり、動かしたり、音を聞いたりしながら、かたちや素材、手触りなどをじっくり観察していた。


想像 -そうぞうしてみよう!-
この手順は、先の探検の手順と同時に行った。参加者の積極的な観察を促すため、作品が何に見えるか、手触りはどうか、素材は何だと思うかなどを尋ね、 会話をしながら一緒に考えた。
その際、作品の制作者である村松が手引きをしたことは参加者の観察に良い影響を与えたように思う。使った材料や作り方、作品の面白い点などを知っていたため、うまく導き、詳しく伝えることができた。
(当初は、参加者が観察したことから想像を膨らませ、目で見える以上の情報に思考を向けるように、「ここには、どんな『なにか』がいそう?」という問いかけをする予定だった。しかし、ワークショップの準備中に、この問いがなくても自由に発想できると踏み、結局この問いかけをはっきりとは言わなかった。看板も、観察の中で自然と目に入ってくるように、作品と並べて置いた。なお、この問いかけをはっきりとしなかったのにはもう一つ理由があったが、それについては「反省、課題」の項目で述べる。)


制作 -「ここに いそうな なにか」をつくってみよう!-
続いて、制作ゾーンに移動した。参加者には、探検ゾーンで得た気づきをもとに「ここにいそうなもの/ありそうなもの」というお題で、好きな素材を使って自由に制作してもらった。用意した素材や道具は、クラフト紙、布、綿、紐、ビニール、色紙、モール、ビーズ、プラスチック容器、木工用接着剤、ガムテープ、ハサミ、ステープラー、など、身近なものとした。制作する前に、用意した素材と道具についてざっと説明した。説明は、「原料は何だと思う?」「使ったことある?」「これは何に似てる?」「この感触面白いよ」などと会話しながら行った。それにより、新たな素材を知ることや、身近にあったものを作品の材料として認識することを狙った。制作の最中は、会話をしたり、見守ったり、困っている場合には制作手法を提案したりした。


片付け・撮影・ふりかえり -できたら、すきなところにおいてみよう!-
最後に、できあがった作品を出展スペース内の好きな場所に置いてもらった。その際、「これがありそうな場所に置いてね」などの声掛けを行った。そして、参加者にインスタントカメラの使い方を教え、作品の写真を撮影してもらった。制作物についての簡単な振り返りも行い、何を作ったのか、なぜその色や素材を選んだのかを尋ねたり、うまくいっている点や面白い点を共有したりした(実際には、制作途中からこうした会話をしていた)。最後に、参加者には作品と写真を持ち帰ってもらった。


参加者の様子
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参加者数は、子ども(小学校低学年)2名、大人1名だった。いずれも滞在時間は1時間〜1時間15分ほどで、そのうち40分〜1時間ほど制作していた。
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探検・想像の手順では全員が積極的に作品を観察し、「これはあれかな」「これは学校の図工の時間に使った」などと自ら話してくれた。
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制作ゾーンは、屋外という環境の効果もあり、ピクニックのような開放的で落ち着いた制作空間になっていた。参加者は穏やかに会話をしながら、夢中で手を動かしていた。保護者が迎えに来たり、イベント全体が終了の時間になったりするまで制作を続けていたため、長時間作業していたくなるような居心地の良い空間になっていたのだと思われる。その理由としては、環境づくり(毛布、クッション、ちゃぶ台等を設置したり、素材の入れ物に気を配ったりした点)がうまくいったことが考えられる。また、素材や道具が揃っていて、自由に制作できるという点だけでも、ものづくりが好きな人にとっては嬉しい環境だったのかもしれない。




事前の想定、制約条件
開催環境
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屋外。暑さ・風・雨等への対策が必要。
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設営、搬出時間はそれぞれ当日1時間。
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電力をどのくらい使えるか不明。
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出展スペースの広さは2.5m×2.5m。
安全・衛生面
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手があまり汚れないこと(絵具や紙粘土などで汚れた手を洗えるような水道がない)。
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服が汚れないこと(参加者が汚れていい格好で来るとは限らない)。
運営面
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スタッフは村松含め2名。
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現地に持っていけるものはそれほど多くない(乗用車1台分)。
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準備費用は赤字になって構わない(今回は投資と考える)。
体験内容
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所要時間は20〜30分程度(通りすがりに短時間で気軽に参加できるものがよい)。
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物として持ち帰れるものがあるとよい(記憶に残る)。
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参加費(500円)に対して適切な満足度が得られること。
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現代の美術表現や創造的思考に接続する内容であること。
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参加者に作るもののテーマを一から考えさせるものより、ある程度テーマや方向性が決まっていたほうが良い(十分な時間や環境を用意できないため)。
参加者の特徴と心持ち
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イベント全体で、100組の家族連れの来場を想定。
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机に向かってじっくり考えるようなワークショップより、手や身体を動かすような体験が好ましい(参加者が「授業を受ける」というような意識を持って来場するとは限らない。通りすがりにふらっと参加するケースが多い。子どもは、おそらく祭りのような高揚感があり落ち着いていない)。
反省、課題
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ものとものをくっつける方法として、木工用接着剤を使う参加者が多かった。しかし、木工用接着剤は乾くのが遅いため、参加者の思うように接着できなかったり、作品を持ち帰るのが大変だったりするなど、短時間のワークショップには向かなかった。改善策としては、次のようなことが挙げられる。
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木工用接着剤以外の素材や道具(例えば、ガムテープや糸、クリップ、ステープラーなど)、技法(結ぶ、縛る、折る、巻く、挿すなど)を教える。
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用意しておく素材・道具を選定する。
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接着の仕方も含めて表現の魅力になりうることを伝える。
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今回は安全に配慮して限定的にグルーガンを使用したが、スタッフの人数や参加者の年齢などによっては、より自由に使っても良いかもしれない。
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「やわらかい彫刻」をつくるという設定の必然性が弱かった。子どもは、「彫刻は硬いものだ」という考えを持っていなかったり、あるいはそもそも「彫刻」という概念自体を知らなかったりする場合が多いため、その認識を広げるような試みはそれほど効果的ではないかもしれない。
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当初、探検ゾーンでの体験を通して、物語的な想像や見立て(例えば、「ここには大きな生き物がいる!」「これは水溜まりっぽい」「ここは◯◯な世界で△△な植物があるはずだ」など)を引き出したいと考えていた。しかし、これはうまくいかなかった。実際、参加者の関心は、素材は何か、どうやって作られているか、どういう仕組みになっているかといった、より具体的・技術的な方向に向いていた。原因として考えられるのは、以下の通り。
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例えば、自然物を目にしたときにはそういった発想をするかもしれないが、今回探検ゾーンに設置していたような人為性を感じさせる美術作品は、参加者にとって自由に想像・解釈する余地がなかった。
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「やわらかい彫刻をつくる」という二次的な要素を混ぜたことで、企画の軸がぶれた。関連して、探検を始める前に、SF的な、あるいは仮想的な世界を感じさせるような雰囲気づくりをしなかった。また、置いていた作品の世界観の設定が弱かった。
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上記を踏まえて、「ここにいそうなもの(ありそうなもの)はなにか」という問いが、発想を飛躍させるきっかけとして適切に機能していなかった。
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2025年8月5日公開






